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「たんぽぽ」聴き比べ

 タンポポの代表曲「たんぽぽ」には、CD化されているだけで現在3つのバージョンが存在する。今回はそれらをじっくりと聴き比べてみた。なお、記述は2001年5月5日時点のものである。

タンポポと「たんぽぽ」の歴史

 タンポポは1998年11月18日発売のシングル「ラストキッス」(EPDE-1014, zetima=以下同)でデビュー。当初のメンバーは、モーニング娘。の石黒彩、飯田圭織、矢口真里の3名。アーティストイメージとしては、やや背伸びした大人っぽさを備えた正統派アイドルポップスを歌う集団、といったところであろうか。翌1999年3月10日に2nd.シングル「Motto」(EPDE-1024)、3月31日には1st.アルバム「TANPOPO 1」(EPCE-5017)を発売。「TANPOPO 1」の中の一曲として含まれていたのが「たんぽぽ」である。「たんぽぽ」は歌詞の一部とパート割りを変更して「たんぽぽ(Single Version)」(EPDE-1037)として同年6月16日にシングルカットされ、タンポポの代表曲となった。

 その後、10月20日に4th.シングル「聖なる鐘がひびく夜」(EPDE-1056)を発売しヒットを博すも、翌2000年1月にメンバーの石黒彩が引退。同年6月にモーニング娘。の新メンバー石川梨華と加護亜依のタンポポ加入が決まるまでは、飯田・矢口の2名で細々とライブ活動等を行うことになる。この2人で「たんぽぽ」を歌う姿は、ライブビデオ「モーニング娘。ライブ初の武道館 〜ダンシング ラブ サイト 2000 春〜」(EPBE-5011=DVD, EPVE-5011=VHS)で見ることができる。

 飯田・矢口・石川・加護の4人構成となった2000年7月8日、横浜で行われた同月5日発売の5th.シングル「乙女パスタに感動」(EPCE-5060)の販促イベントで、ただ一度だけ4人構成による「たんぽぽ」が歌われ、このことはタンポポファンの間では伝説となっている(筆者は残念ながらこのイベントには行っていない)。翌2001年2月21日には、4人構成では2枚目となる6th.シングル「恋をしちゃいました!」(EPCE-5091)を発売し、新生タンポポの定着を印象づけた。平均年齢の低下もあり、大人っぽさよりもかわいらしさにシフトした感はあるが、背伸び、正統派アイドルポップスというイメージは変わっていないというのが、筆者の印象である。

 そして2001年4月18日。タンポポを初めとするモーニング娘。から生まれたサブグループの楽曲を集めたアルバム「Together! -タンポポ・プッチ・ミニ・ゆうこ-」(EPCE-5094)が発売され、その中に「たんぽぽ(2001 Version)」として、タンポポファン待望の現4人構成による「たんぽぽ」が収録された。

「たんぽぽ」の魅力

 「たんぽぽ」の作詞および作曲はつんく、編曲は小西貴雄による。「TANPOPO 1」収録版のみ若干歌詞が異なっている他、各バージョンでパート割りが変更されているが、アレンジ等は同一である。

 「たんぽぽの様に 強く」「たんぽぽの様に 光れ」といった歌詞に見られるように、地味で小粒、一見弱々しいながらも存在感があり、逆境に強いたんぽぽの花のイメージにメンバーの個性を重ねたところが、この曲をタンポポの代表曲たらしめている所以であろう。それでいて重苦しさは全くなく、弦楽器の音と電子音を巧みに組み合わせた前奏や間奏、ふんだんに盛り込まれたコーラスやハーモニー、シンプルで覚えやすいメロディラインには、柔らかい風、前に進んでいく気分といったたんぽぽの季節の空気がちりばめられ、むしろしっかりと地に足のついた軽快さが感じられる。春から初夏にかけての季節に最も聴きたい音楽の一つとして残していきたい楽曲である。

「TANPOPO 1」収録版 (1999.03.31)

 さて、ここからは各バージョンを聴き比べていきたいと思う。まずは初出である、アルバム「TANPOPO 1」収録版から。

 このバージョンは、アルバムの中の一曲だけあって、実にあっさりとしたパート割りになっている。Aメロ前半、Aメロ後半、サビの各部分の主旋律をそれぞれ基本的に一人で歌うという構成だ。このようなパート割りは、華やかさには欠ける一方で、歌詞が細切れに分断されないことから、ソロシンガーの歌のように言葉を噛み締めながら聴くことが出来るという利点もある。

 歌詞とパート割りの対応では、石黒=大人の強さ、飯田=詩的に表した信念、矢口=はかなげな外見の内に秘めた決意、といった三者三様の「強さ」が表現されているように思う。あるいは作詞の段階でパート割りまで決まっていたのではないかと思わせるほど、歌詞と歌い手のキャラクターが一致している。矢口のまだ弱々しい声で「大丈夫」とか「強く」とか言われてもとても大丈夫とは思えないのだが、そうあろうとする健気な気持ちは十分に伝わってくる。

 エンターテインメント性は低いがメッセージ性が高い。それがこの「TANPOPO 1」収録版の特徴ではないかと思う。

Single Version (1999.06.16)

 このバージョンから、Aメロの最初の部分の歌詞が変更になっているが、本質的な変わりはないと言っていいだろう。むしろパート割りの変更、およびメンバーの声の成長に、「TANPOPO 1」収録版との違いを感じる。

 具体的にパート割りがどう変わったかと言うと、Aメロはそのままで、1コーラスのサビを4分割して、3人全員が毎コーラスのサビでソロパートを担当するようになった。これにより、言葉が細切れになる弊害もあるものの、パートの変わり目で質の異なる声が繋がることで、それぞれの声質の持ち味を強め合う効果が生まれている。

 各々の声の成長も見逃せない変化である。これと言って特徴のなかった飯田の声が、不安定ながらもかなり太く強くなり、石黒は安定して大人っぽさを増し、矢口は相変わらず弱々しいものの非常にかわいらしい声になっている。

 サビのパート割りは、1コーラス目なら石黒→飯田→矢口→石黒の順になっており、2コーラス目、3コーラス目もそれぞれ矢口、飯田から始まるだけで順序は変わらない。この飯田→矢口の変わり目と矢口→石黒の変わり目が実に心地よい。飯田は語尾のところで息づかいが聞こえるような歌い方をする。飯田の地声の強さ→飯田の息づかいの一瞬の弱さ→矢口の地声の柔らかい弱さと繋がるところのコントラストが美しい。また、矢口の精一杯の声の直後に石黒の余裕のある声が来ることで、安心を感じさせてくれるところもよい。

 このSingle Versionは、メンバーの成長に合わせて完成度を上げたバージョン、と言えるのではないだろうか。

飯田・矢口版 (2000.05.21=ライブ)

 これはCD化されていない、ライブビデオに収録されたバージョンである。正直、2人だけで歌い踊る姿には痛々しいものがある。しかし、この苦しい時期を経たことが現在のタンポポの中心メンバーとしての飯田・矢口を形作っていることもまた事実であろう。

 いわゆるテレビサイズ(1コーラス目+3コーラス目)なので、Aメロのパート割りはそのままで、サビだけを一部二人のユニゾンにすることで石黒の穴を埋めている。また、二人で精一杯大人っぽさを出そうとしているのも伝わってくるが、やはりこのバージョンは「苦肉の策」と評する他はないだろう。

2001 Version (2001.04.18)

 飯田・矢口・石川・加護の4人版。実際にはこの前に4人構成による「『乙女パスタに感動』販促イベント版」が存在し、それは2001 Versionとは異なるそうだが、前述の通り筆者はそれを聴いていないので、いきなり「2001 Version」に行きたいと思う。

 まずパート割りの確認から。Single Versionのパート割りを基本に、石黒のソロパートを石川のソロ、加護のソロ、石川・加護のユニゾンのいずれかに変更している。また、飯田・矢口のパートはSingle Versionの音をそのまま使っているように見受けられる。正直、あまり手間をかけないで作ったなと感じさせられるが、それなりに面白いところもある。

 例えば、録り直したわけでもないのに飯田・矢口の声が大人びて聞こえること。かわいらしくて弱々しく子供っぽい石川・加護の声が入ったことで、Single Versionではあんなにはかなく感じられた矢口の声が、お姉さんっぽく聞こえるから不思議だ。飯田の声も心なしか力強く感じられる。最もアダルトな歌声を持っていた石黒の抜けた穴を、同じ系統の声の持ち主で埋めるのではなく、敢えてより幼い声で埋めることで、飯田・矢口の声の役割が変わり、結果タンポポの持ち味であった声質の幅の広さ、各人の声が持つ役割の重さは維持されたという事実は、非常に興味深いところである。しかし、同時に、それならばパート割りを練り直し、飯田と矢口のパートも録音し直せば、Single Versionからの2年間での飯田・矢口の成長や、石川・加護それぞれの声質の持ち味をも織り込むことができたのにと、残念でならない。今なら飯田はもっとしっかりと、矢口はもっと優しく歌えたはずだし、石川・加護も本来なら「二人で一人」のような位置付けに甘んじる必要などなかったはずなのだから。

 もう一点。やはり3人から4人に増えると、それだけコーラスやハーモニーに厚みが出る。当たり前といえば当たり前のことだが、実際に心地よいボリューム感になっているのを見せられると、過去のタンポポの他の楽曲も4人版で聴いてみたいと思わずにはいられない。

おわりに

 一つの楽曲を、ボーカルアレンジの異なる4つものバージョンで聴けるというのはなかなかないことだ。しかもそれを時系列でメンバーの成長、グループの発展とリンクさせて追うことができるというのも面白い。結局、最新版(2001 Version)には面白さとそれ故の欲求不満の両方を感じる中途半端な結果に終わったが、欲求不満の部分は「次」、即ち新たなバージョンの「たんぽぽ」またはタンポポの別の楽曲の再録版への期待に置き換えることにして、この「聴き比べ」を締めたいと思う。ちなみに、どれが一番好きかと問われれば、やはり完成度の高さでSingle Versionであろうか。

 なお、歌詞を一部引用したが、評論のために必要な、著作権法で認められた引用であると考えている。もし問題があれば連絡を。


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